特許権の存続期間

2019.07.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1.はじめに

特許公報を見ていると、いろいろな日付が出てきます。
例えば、出願日、公開日、登録日、(公報)発行日、……

今回は、これらの日付を使い、特許権を見る上で気にすることも多くその特許権が存続しているか否かを判断する一つの目安になる「存続期間」について見ていきます。

2.特許権は20年間?

特許権は“20年”有効と、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
現在の日本特許の存続期間は、原則「出願の日から20年」で終了すると定められています。(特許法第67条)

例)
  特許出願日:2000年1月1日
     ↓ +20年
  特許満了日:2020年1月1日

ただし特許権は、審査が行われ特許査定が下りた後に、設定登録がなされて(登録日)から効力が発生するため、実際に権利が有効な期間(存続期間)は20年より短くなります。

例)
  特許出願日:2000年1月1日
  特許登録日:2003年1月1日
    ↓ 権利が有効な期間(存続期間):17年間
  特許満了日:2020年1月1日

なお、この存続期間が「出願の日から20年」で終了することは、米国(1995年6月9日以降の出願)や欧州(EPC)の特許でも同様です。

更に、年金未納などの理由によりこの期間の途中で権利が抹消されている場合もあるため、日付以外に経過情報なども併せて確認しましょう。

3.存続期間が20年を超えることも

先ほど「原則出願の日から20年」と書きましたが、もちろん「例外」が存在します。
各国において存続期間を延長する制度があり、日本では「医薬品等の特許権の存続期間の延長」(特許法67条4項)が有名です。

医薬品などの一部の分野では安全性の確保などを目的とした法規制(例えば、薬機法による医薬品類の臨床試験・承認審査など)への対応に長い年月を必要とします。するとこの期間中に特許権が仮に存在していたとしても、その規制をクリアする(製造承認日など処分日)まで、販売など特許発明を実施することができず、特許権を利用できる期間が短くなってしまうという問題が生じます。
「医薬品等の特許権の存続期間の延長」はこの問題に対し、これらの処分により特許発明を実施することができなかった期間がある場合は、5年を限度にこの期間分を存続期間に加え延長を申請することができる制度です。

例)
  特許出願日:2000年1月1日
  治験計画届提出:2002年1月1日
  特許登録日:2003年1月1日
    | 特許権はあるが、発明を実施(薬が販売)できない期間(7年)
  製造認証日:2010年1月1日
    | 延長前に特許権を利用できる期間(10年)
  延長前の特許満了日:2020年1月1日
    ↓ 延長登録出願による特許権の延長期間(5年)
  延長後の特許満了日:2025年1月1日


この制度は米国や欧州(EPC)にも存在し、米国の「存続期間の延長」制度(PTE;Patent Term Extension)、EPCの「補足保護証明」制度(SPC;Supplementary Protection Certificate)として日本でも知られています。どちらも5年を上限に、存続期間を延長することが可能です(EPCでは、「小児用医薬品に係る延長」制度を併用し、更なる延長も可)。

なお、これらの制度は、各国・地域で、延長の回数や対象となる技術分野が多少異なります。

4.医薬品以外に延長制度はないの?

米国の特許制度の話になりますが、USPTOの審査遅延などにより特許の発行が遅れた場合、その日数分を存続期間に加え調整するという制度が存在します。
この制度は、「存続期間の調整」(PTA;Patent Term Adjustment)と呼ばれています。
PTAは、もともと米国特許の存続期間が旧制度の「特許付与日より17年」から、現制度の「出願日より20年」に変更された際に、USPTOの審査遅延など権利者の責によらない事由により特許の発行が遅れた場合に、従前の17年間の存続期間を確保できないという問題があり、その補償のために設けられた制度です。

例)
  出願日:2001年1月1日
  PTA日数:700日(USPTOによる手続き遅延の合計日数)
  登録日:2006年1月1日
    | 調整前の存続期間(15年)
  調整前の満了日:2021年1月1日
     ↓ PTAによる調整期間(700日)
   調整後の満了日:2022年12月2日

なお、特許に関連する日付と同様にPTA日数も公報のフロントページに記載されていますが、過去にCAFCがUSPTOのPTA計算方法に誤りがあるとし、調整期間の計算方法が変更されたことがあります。
この契機となったWyeth事件のUS7179892について、B2公報にはPTA日数が462日と記されていますが、後にUS PAIRなどでPTA日数が756日に修正されています。
このように、公報記載のPTA日数に変更がされる場合もありますので、必要に応じてUS PAIRなどで確認する必要があります。

また、米国特許にはほかにも存続期間に影響を与える制度があるため、満了日の見積もりには、USPTOが公開している「Patent Term Calculator」を利用すると便利です。

この制度も米国だけの話ではありません。日本でも環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関連して、特許法第67条が改正されこのPTAに似たような制度が、2020年3月10日以降の出願に適用される予定です(「期間補償のための延長登録」特許法第67条2項)。

5.さいごに

日本を中心に、米国、欧州(EPC)の特許の存続期間について主だったところを見てきました。
はじめの内は、特許公報に記載された日付から単純に存続期間がわかりましたが、進むにつれてそれ以外の情報も必要になってきました。
特に米国のPTAという制度をややこしいと感じたかもしれませんが、日本国内でも今後は「期間補償のための延長登録」制度が開始されますので存続期間を正確に把握する際には注意をしていきましょう。


※文中の例示では、分かりやすい日付を使用しています。その日に手続きが可能であることなどを示すものではありません。

調査事業部 森

<参考WEBサイト>

『「特許権の存続期間の延長に係る審査基準」の改訂について』, 特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/kaitei2/encho_shitsumon_1903.html

『特許権の存続期間の延長登録制度について』, 特許庁
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150327shiryou08-01.pdf

『Patent Term Calculator』,USPTO
https://www.uspto.gov/patent/laws-and-regulations/patent-term-calculator

『USPTO、特許期間調整の計算方法変更に係る暫定措置を発表』,日本貿易振興機構
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/n_america/us/ip/news/pdf/100201.pdf

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