アズテック調査コラム
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初心者のための母集団作成の考え方

 調査の初心者にとって、調査内容から調査母集団を作成することはひとつの関門です。というのも、調査毎に欲しい情報とその背景が異なるために、その都度母集団の「作り方」が変わるからです。
 しかしながら、母集団を作成する「考え方」には共通するものもあります。そこで今回は調査の基本となる出願前調査を想定し、調査母集団を作成するまでの工程と共に自分自身が初心者だった頃に知りたかった「考え方」を述べていこうと思います。

目次

1.母集団を作成する目的
2.母集団作成に関わる要素
3.検索概念
4.キーワードと特許分類
 ・キーワード
 ・特許分類
5.検索式
6.まとめ

1. 母集団を作成する目的

 存在する全ての公報を調査することは困難です。そのために、調査する公報を絞った集団 = 母集団を作成することが必要になります。そのため、母集団を作成する際には「量」と「質」の妥当性が求められます。
 「量」に対しイメージしにくい「質」ですが、ひとつには「クライアントの満足度」があります。「クライアントの満足度」には「費用対効果が高いこと」があり、「再現率」と「適合率」が調査目的に沿った母集団で調査が行われることでもあります。

再現率全公報に存在する調査目的に合った公報のうち、母集団に含めることのできた割合
(例)全公報に存在する調査目的に合った公報の件数が1000件であり、その内500件を母集団に含めることができた場合
→再現率は50%
適合率母集団のうち、調査目的に合った公報が含まれる割合
(例)母集団件数が100件であり、その内60件が調査目的に合った公報である場合
→適合率は60%

2. 母集団作成に関わる要素

 母集団を作成するにあたり、次の3つの要素に分けて考えていきます。

  • 検索概念
  • キーワードと特許分類
  • 検索式

これらを母集団作成の流れに沿って解説していきます。

3. 検索概念

 ここでは、調査の内容から調査に必要な要素をまとめた、検索式作成のための方針を「検索概念」としています。どの程度までを「調査に必要な要素」と考えるかは、調査内容、調査員による違いが出てきますが、私は「どんなものか?を3秒以内にまとめた内容」を目安にしています。

例)
【請求項1】
(a)●●単量体5~80質量部、(b)××単量体10~92質量部、(c)△△単量体0.1~10質量部と、界面活性剤を重合してなる重合体エマルション組成物を含むことを特徴とする塗料組成物。

このような請求項の場合は、
「単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)と、界面活性剤(d)を使った塗料(e)」
とまとめています。

そこから検索概念を作成すると、次のようになります。

単量体(a)* 単量体(b)* 単量体(c)* 界面活性剤(d)* 塗料(e)

 そして次に、調査で重視すべき特徴点を確認します。
 特徴点を確認するのは、要素の重要度と使用優先順位を決めるためです。それにより、技術的な合致度が高い分類・キーワードを使った検索式は絞込みを緩くし、技術的な合致度が低いものは絞り込みをかけた検索式を作ることができ、「再現率」と「適合率」=「質」、母集団件数=「量」ともに適切な母集団を作成することが可能になるからです。

 特徴点のひとつの例としては、「○○であることにより、問題点を解決できる(他の発明との違いが生まれる)」の○○にあたる部分です。

単量体(a) * 単量体(b) * 単量体(c)* 界面活性剤(d)* 塗料(e)
         ↑
単量体(b)を含有することにより、 耐水性 に優れる

 他の各要素についても、調査における重要度とそれぞれの優先順位を確認しておくと『5.検索式』で役立ちます。

4. キーワードと特許分類

 キーワードと特許分類は、検索概念で明らかにした要素(前述の(a)~(e))を表し、検索式の材料となります。キーワードはWeb検索と同様に入力した文字列そのものが含まれる公報を機械的にヒットさせますが、特許分類は人間が公報の内容を判断して付与しています。このためキーワードと特許分類は相補的な特徴を持っています。それぞれ次のような特徴があります。

・キーワード

【○】
名詞的に特定性の高い要素を検索しやすい

【×】
・同音異義語などのノイズが多くなる場合がある
・表記が少し違うだけで母集団から漏れてしまう
・積層体の層の位置関係など、単語で表現しづらい構成要素には不向き
など

・特許分類

【○】
・特許分類は公報の内容を人が判断して付与されているため、同音異義語などのノイズ、表記のゆれ、単語では表現しづらい要素などをカバーできる

【×】
・要素に該当する特許分類がない場合がある
・人間が付与しているため、付与漏れや付与間違いの可能性がある

 また、IPCやFIは発明の主題に付与されますが、Fタームは発明の特徴に付与されます。探したい要素が公報のタイトル・要約・請求項に記載されにくい場合は、その要素に基づく特許分類がFタームのみのこともありますので、使う際には分類の特徴と探したい要素との相性を考慮する必要があります。

 キーワードと特許分類についても、『3.検索概念』のように重要度(使用優先順位)を確認しておくと次の『5.検索式』で役に立ちます。

5. 検索式

 ここまでに整理してきた「検索概念」に応じてキーワード、特許分類を使い、検索式を作ります。
 検索式によって母集団を作成するのは、調査において発行されているすべての公報を査読することが難しいためです。このことからも、検索概念を忠実に表した、調査対象に近い公報を集める「濃い検索式」を作り、そこから少しずつ母集団の範囲を広げていくと目的に沿った母集団を作成するためのコントロールがしやすくなります。そして、コントロールのために『3.検索概念』と『4.キーワードと検索式』で確認した要素の重要度が参考になります。これを基に、どの要素をどれくらいの範囲まで広げて探すかを検討します。

コントロールの方法には次のものがあります。

範囲狭い広い
キーワード、特許分類
要素そのもの
上位概念
検索範囲TAC
(発明名、要約、請求項)
本文全文
-検索記号-
 ①四則演算*(and)+(or)
 ②近傍検索使用する使用しない

※なお、キーワードの使い方、近傍検索については『キーワード検索のテクニックと考え方』をご参考ください。

 また、特定の要素をどうしても探したい場合に、その要素をあえて外して検索式を作ることもあります。要素を検索式で使わないということは、その要素を探さないということではありません。限定がかかっていない = 一番広く探せる状態を意味するためです。

6. まとめ

【母集団作成の目的】
「量」と「質」が妥当である母集団を作成すること

【母集団作成の流れ】

調査内容、調査目的を把握し、検索概念を作成する・・・ 設計図を得る
   ↓
特許分類、キーワードの選定・・・ 材料を準備する
   ↓
検索概念を基に、特許分類、キーワードを使って検索式を作り、調査に合った母集団を作成する・・・ 組み立てる

 以上が、私が初心者だった頃に知りたかった「考え方」です。母集団を作っていく中での足掛かりになれば幸いです。

調査事業部 坂本